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新潟地方裁判所 昭和52年(ワ)17号 判決

原告

遠藤正人

ほか五名

被告

本田新作

ほか一名

主文

被告両名は、各自原告遠藤正人、同遠藤マチに対し各金四〇七万六、四八一円、原告遠藤幸子に対し金一四五万六、七一〇円、原告遠藤洋子、同遠藤淳一、同遠藤武司に対し各金九六万四、四七四円及びこれらに対する昭和五一年一月一九日から完済に至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用はこれを五分し、その一を原告らの、その余を被告らの負担とする。

この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告両名は各自原告遠藤正人に対し金四九七万〇、二一二円、原告遠藤マチに対し金四九七万〇、二一一円及びこれらに対する昭和五一年一月一九日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告両名は各自原告遠藤幸子に対し金一九八万五、九七四円、同遠藤洋子、同遠藤淳一、同遠藤武司に対し各金一三二万三、九八三円及びこれらに対する昭和五一年一月一九日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  第1、第2項につき仮執行の宣言を求める。

二  被告ら

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  原告らの請求の原因

1  交通事故の発生

昭和五〇年一〇月一九日午前〇時四五分ころ、新潟県中蒲原郡横越村大字横越八八六六番地二先横雲橋西詰交差点において、遠藤英男(以下英男という)が運転し、遠藤均(以下亡均という)、遠藤芳文(以下芳文という)、遠藤光明(以下亡光明という)がそれぞれ同乗していた乗用車(以下甲車という)と被告本田新作が運転していた乗用車(以下乙車という)が出会頭に衝突した。

2  亡均、亡光明の傷害の態様

亡均は、右上腕骨々折、右橈骨々折、右肩甲骨々折、左尺骨々折、左股関節脱臼、胸腔内出血、右肺臓破裂の傷害を受け病院に収容されたが同日死亡した。

亡光明は、頭蓋骨々折、右肺臓破裂、右胸腔内出血の傷害を受け病院に収容されたが、同月二三日死亡した。

3  責任原因

被告山田伸二は乙車の保有者であるから、自動車損害賠償保障法(以下自賠法という)第三条の規定により、被告本田は前記交差点に進入するに際し、同交差点に設置されている信号機が赤信号を表示していたから同信号に従い乙車を停止させる義務があるのにこれを怠り、時速約七〇ないし九〇キロメートルで同交差点に進入した過失があるので民法第七〇九条の規定により、それぞれ亡均、亡光明が被つた損害を賠償すべき責任がある。

4  亡均の損害

(一) 亡均は、昭和三四年一〇月生まれで、本件事故当時一六歳、県立新津工業高等学校第一学年に在学中であり、相続人は父原告正人と母原告マチであり、その損害はつぎのとおりである。

(1) 医療費

金八万一、八四〇円

(2) 葬儀費

金七一万九、一五五円

(3) 逸失利益

金一、六六四万一、七二八円

ア 算出の基礎

年収

金二〇四万六、七〇〇円(賃金センサス昭和四九年第一巻第一表男子労働者年齢計給与額)

生活費控除

年収の五割(単身者)

就労可能年数と対応ライプニツツ係数

五〇年 一六・四八〇

養育費控除と対応ライプニツツ係数

月額金一〇、〇〇〇円一八歳まで控除一・八五九

イ 算出方式

204万6,700円×(1-0.5)×16,480=1,686万4,808円

1万円×12×1.859=22万3,080円

1,686万4,808円-22万3,080円=1,664万1,728円

(4) 慰藉料

金八〇〇万円(単身者)

以上合計金二、五四四万二、七二三円であるが、自動車損害賠償責任保険から保険金一、六二九万一、三〇〇円の支払いを受けているのでこれを控除した金九一五万一、四二三円。

(二) 被告らが右損害の賠償をしないので弁護士に訴訟委任をし新潟県弁護士会報酬規則による標準額支払いの約束をしているので、前記損害額に右による弁護士費用金七八万九、〇〇〇円を加えた金九九四万〇、四二三円を原告正人が金四九七万〇、二一二円、原告マチが金四九七万〇、二一一円被告らに請求する。

5  亡光明の損害

(一) 亡光明は昭和三年二月生まれで、本件事故当時四七歳、有限会社吉村商会取締役で、死亡前一ケ年間の役員報酬は金二八二万〇、〇〇〇円であり、亡光明の相続人は妻原告幸子、長女原告洋子、長男原告淳一、二男原告武司で、子供はいづれも未成年である。その損害はつぎのとおりである。

(1) 医療費

金五六万五、二八〇円

(2) 葬儀費

金八四万八、一八五円

(3) 逸失利益

金二、四五九万九、九八八円

ア 算出の基礎

年収

金二八二万〇、〇〇〇円(前記)

生活費控除

年収の三割(世帯主)

就労可能年数と対応ライプニツツ係数

二〇年 一二・四六二

イ 算出方式

282万0,000円×(1-0.3)×12.462=2,459万9,988円

(4) 慰藉料

金一、〇〇〇万円(世帯主)

以上合計金三、六〇一万三、四五三円であるが、同じく自賠責保険から保険金三、〇五八万五、五三〇円の支払いを受けているのでこれを控除した金六四二万七、九二三円。

(二) 被告らが右損害の賠償をしないので、同じく弁護士に訴訟委任をし新潟県弁護士会報酬規則による標準額金五三万円の支払いを約しているので、前記損害額に右弁護士費用を加えた金五九五万七、九二三円を、原告幸子が金一九八万五、九七四円、原告洋子、淳一、武司が各自一三二万三、九八三円被告らに請求する。

6  よつて原告らは被告らに対し、それぞれ前記金員及びこれらに対する本訴状送達の翌日である昭和五一年一月一九日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  原告らの請求原因に対する被告らの認否

1  請求原因第1項ないし第3項は認める。

2  同第4、第5項は知らない。

三  被告らの抗弁

本件事故については原告側にも過失があるので、過失相殺の主張をする。

1  前記交差点に設置されている信号機は甲、乙両車の進行方向の双方についているが、両信号の関係は次のようになる。

〈省略〉

右のように、双方とも赤になる時間が二秒あつたのであるが、双方が衝突地点に差掛つたとき、信号は双方とも赤の状態であつた。従つて、亡均、亡光明の同乗していた甲車側にも赤信号で突込んできた過失がある。

2  仮に甲車の対面信号が青であつたとしても、甲車運転手英男は七〇キロ前後の速度で、しかも右方の安全を確認することなく現場を通過しようとした過失がある。ことに他方道路が国道であり、交通量が多いのであることを考えれば、この過失は重大である。

四  被告らの抗弁に対する原告らの認否

被告らの抗弁第1、第2項はいずれも否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因第1項ないし第3項については当事者間に争いがない。

二  請求原因第4項について

1  原本の存在及び成立に争いのない甲第三号証によれば、亡均の医療費は八万一、八四〇円を要したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

2  原告遠藤正人本人尋問の結果及び同結果により成立の認められる甲第一号証によれば、亡均の葬儀に関して七一万円余の出費をしたことが一応認められるが、亡均の年齢、社会的地位に照らし本件事故と相当因果関係にある損害として被告らに負担させるべき金額は三〇万円をもつて相当と解する。

3  原告遠藤正人本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、亡均は昭和三四年一〇月生まれで本件事故当時一六歳、県立新津工業高等学校一年生であつたこと、亡均の相続人は父親の原告正人と母親の原告マチであることが認められる。賃金センサス昭和四九年第一巻第一表及び簡易生命表によれば、男子労働者の産業計、学歴計、年齢計の平均年収は二〇四万六、七〇〇円であるから亡均も一八歳から六七歳までの五〇年間右平均年収を得ることができたと推定され、従つて同人は右年収によつて計算した五〇年間の収入合計から右期間中の生活費(収入の五割が相当である。)及び一六歳から一八歳までの養育費(年間一二万円が相当である。)を控除した残額相当の得べかりし利益を喪失したことになるが、これをライプニツツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して本件事故発生当時の現在価値を算出すると一、六七二万二、四二二円となる。

204万6,700円×(1-0.5)×16.5589-12万0,000円×1.8594=1,672万2,422円

4  本件事故の態様(被告過失の重大性)、亡均の年齢、同人と原告正人、同マチとの身分関係その他本件に顕れた諸事情を考慮すると、本件事故で亡均が死亡したことにより右原告らの被つた精神的損害に対する慰藉料の額は右原告らにつき各自三三〇万円が相当と認められる。

三  請求原因第5項について

1  原本の存在及び成立に争いのない甲第四号証によると亡光明の医療費は五六万五、二八〇円を要したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

2  原告遠藤正人の本人尋問の結果及び同結果により成立の認められる甲第二号証によると、亡光明の葬儀に関して八四万円余の出費をしたことが一応認められるが、亡光明の年齢、社会的地位に照らし本件事故と相当因果関係にある損害として被告らに負担させるべき金額は四〇万円をもつて相当と認める。

3  原告遠藤正人本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば亡光明は昭和三年二月生まれで本件事故当時四七歳、有限会社吉村商会取締役で死亡前一年間の役員報酬は二八二万円であつたこと、亡光明の相続人は妻の原告幸子、長女の原告洋子、長男の原告淳一、二男の原告武司で本件事故当時子供らはいずれも未成年であつたことが認められる。

また簡易生命表によれば亡光明の平均余命は二七・七六歳であるから、亡光明は六七歳までの二〇年間右認定の収入を得ることができると推定され、従つて同人は右収入によつて計算した二〇年間の収入合計から右期間中の生活費として収入の三割を控除した残額相当の得べかりし利益を喪失したことになるが、これをライプニツツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して本件事故発生当時の現在価値を計算すると二、四六〇万〇、三八二円となる。

282万円×(1-0.3)×12.4622=2,460万0,382円

4  本件事故の態様(特に被告本田の過失の重大性)、亡光明が一家の主柱であつたこと、同人の年齢、同人と原告幸子、同洋子、同淳一、同武司との身分関係その他本件に顕れた諸事情を考慮すると、本件事故で亡光明が死亡したことにより右原告らの被つた精神的損害に対する慰藉料の額は原告幸子につき三〇〇万円、その余の原告につき各二〇〇万円が相当であると認める。

六  次に被告らの過失相殺の抗弁について検討する。

被告らは甲車の運転者英男の過失を被害者である亡均及び亡光明の損害の算定にしんしやくすべきであると主張するのであるが、被害者自身の過失と同視し得る被害者側の者とは「被害者と身分上ないし生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者」(最高裁判決昭和四二年六月二七日民集二一巻六号一五〇七頁)と解される。証人遠藤英男の証言及び原告遠藤正人の本人尋問の結果によると英男と亡光明は兄弟、英男と亡均は叔父、甥の身分関係にあつて、英男、亡光明、亡均の父親の原告正人は共同して有限会社を経営しているが、生計は各々独立し、別々に家庭と住居を有していることが認められ、右認定に反する証拠はない。右認定事実によれば甲車運転者の英男は亡均、及び亡光明の被害者側の者と解することができず、従つて仮に英男に何らかの過失があるとしてもそれを亡均及び亡光明の損害にしんしやくすべきではない。

七  もつとも甲車運転者英男には過失を認めるに足る証拠がない。その理由を簡単に付言する。

成立に争いのない乙第一号証、第五、第六号証、証人遠藤英男の証言及び原告遠藤正人の本人尋問の結果によると、甲車運転者の英男は前記交差点の手前約二七〇メートル先で対面信号が赤であることを発見したがそのまま進行し、右交差点手前約五〇メートル先で交差道路の信号も赤(両方の信号とも赤赤の状態)になつているのを認め、徐々にブレーキをかけてスピードを落し、交差点(厳密には衝突地点)の手前二〇メートル位先で対面信号が青信号に変つたのを確認して交差点に進入し本件事故となつたこと、英男は右交差点に進入する際乙車のライトは確認できたが、走行中の車のライトか停止中のそれかまでは確認しなかつたこと、衝突直後英男は一瞬気を失つたが、気がついたら車外に投げ出されていたが、被告本田の運転する乙車の方へ行き同被告に対し「赤なのに何故入つて来たのか、この馬鹿野郎」と怒鳴つたが、再び立つている力がなくなり倒れて気を失つたこと、以上の事実が認められる。

被告らは英男も赤信号(赤赤の状態)を無視して交差点に進入した過失があると主張し、その根拠として前示乙第一号証の被告本田の指示した甲乙両車の位置、その距離関係等に、同被告の供述する速度を前提にすると(英男の指示説明と矛盾するのは勿論であるが)甲車も赤信号を無視あるいは速度違反をしたことになるというのである。しかしながら同被告も英男も必ずしも正確な速度とその位置を確認しながら車を運転していないと考えられ、またそれを期待することが性質上困難な事柄であるので、一般に右指示ないし供述のどちらか一方を絶対視することは相当ではない。

まして同被告は無免許、酒気帯び、速度違反(制限速度は時速四〇キロメートル)、赤信号無視の無謀な運転中の本件事故であつて、信号機の信号の表示にすら注意を払つていないのであるから自車の位置や速度に細心の注意を払つているとは到底考えにくく、同被告の指摘する位置及び速度でもつて前記認定事実を覆すことはできないものというべきである。右認定事実によれば、英男には赤信号無視の過失はない。また同人にその余の過失を認めるに足りる証拠はない。

八  ところで原告らは、自動車損害賠償責任保険から亡均につき一、六二九万一、三〇〇円、亡光明につき三、〇五八万五、五三〇円の保険金の支払をそれぞれ受けていることを自認しているので亡均及び亡光明の前記認定の損害額から右保険金をそれぞれ控除し、各原告の法定相続分に従つて各原告の損害額を計算すると、原告正人、同マチは各自三七〇万六、四八一円、原告幸子は一三二万六、七一〇円、原告洋子、同淳一、同武司は各自八八万四、四七四円となる。

九  原告らは、被告らが本件損害の賠償をしないので本訴代理人たる弁護士に訴訟委任をし、新潟県弁護士会報酬規則による標準額支払いの約束をしていると主張するが、これを認定するに足りる具体的な証拠はない。

しかしながら原告らが本件訴訟の追行を弁護士たる本訴代理人に委任したことは当裁判所に顕著な事実であり、そのための報酬等を支払うべきことは当然のことであり、本件認容額、訴訟経過等に鑑み、原告らが本件事故と相当因果関係にある損害として被告らに請求し得べきものは、原告正人、同マチに対して各三七万円、原告幸子に対して一三万円、原告洋子、同淳一、同武司に対しては各八万円とするのが相当と認められる。

一〇  以上判示のとおり、原告らの本訴請求は、被告ら各自に対し、原告正人、同マチは各自四〇七万六、四八一円、原告幸子は一四五万六、七一〇円、原告洋子、同淳一、同武司は各自九六万四、四七四円、及び右金員に対する本訴状送達の翌日であることが本件記録によつて明らかな昭和五一年一月一九日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を求める限度で正当として認容すべきであるが、その余の請求は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条の規定をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 馬淵勉)

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